表には出ないけれど、日本の"手仕事"を生かしたプロダクト製作に携わる人がいる。
彼女自身が実際に物を作っているわけではない。けれどもその製作が円滑に進むよう、一方では提案を、一方では製作のマネジメントを行う。
たとえばそれは、一曲を皆で演奏するオーケストラの指揮者のような存在だ。
今回はそんな仕事に携わる、株式会社t.c.k.wの中山 明香さんにお話をうかがう。心から自身の仕事を楽しそうに語る彼女の表情が、とても印象的だった。
仕事はいつも新しいことへの挑戦の連続。プレッシャーもあることだろう。でもそれさえも楽しんでしまうような彼女の魅力と合わせて、こういう仕事があるということもぜひ知って欲しい。
「ubushina」、漢字にすると「産品」。彼女が立ち上げから携わっているプロジェクトの名前だ。"その土地固有に生み出されたもの"という意味を持つ。
彼女はそのプロジェクトで、日本全国の"手仕事による技術"と、デザイナーや設計者の"デザイン"を結び、具現化していくという仕事を行っている。
簡単に言うと、職人さんとデザイナーさんの間に立って、それらを一番いいかたちでマッチングさせ、製作を導く。その役が、彼女の仕事なのである。

職人さんたちにとっては、クライアントであり、自分たちの技術やマテリアルを売ってくれる営業さん。また一方、デザイナーさんたちにとっては、生かせる技術や使うマテリアル等を提案し、制作指揮を執ってくれるディレクターさん。彼女の仕事はそういう多面性を持つ。
しかし彼女のような仕事は、特殊な職種というわけではなく、「こういう内容の仕事をしている方は、他でもいらっしゃるんですよ」と語る。けれど彼女のように、たくさんの技術やマテリアルを平等な立場でセレクトし、それらを使って提案をするというかたちは、そう多くはないのではないかという印象を受けた。

そんな彼女の営業ツールは、手仕事による技術が詰まった「マテリアル」。普段も、打ち合わせの際にはキャリーに載せて、持って行くのだとか。
「私たちが扱っているマテリアルは、日本古来の手仕事の技術から生まれるものが多いですが、伝統技術や職人技を残そうとか、そういうことにこだわっているわけではありません。今の時代に合わせて生かす方法を考え、提案しているんです」
確かに、彼女がこれまでに携わった仕事の話(後述のとおり)をうかがっているとそれがよく伝わってくる。たとえば「漆」ひとつとっても、古来の技法をそのまま生かすと仕事として実現不可能なことが多い。それを別の方法で同じようにできないか?そう考えるのも、彼女たちの役目だ。
「基本的にすでにある物を作っているわけではないので、素材の特性やこれまでの経験をもとに、想定しながら作っています。毎回、良くも悪くも新たにチャレンジすることばかりですね。これも職人の方のねばり強い挑戦と並々ならぬ協力があるからできること。だから日々、コミュニケーションは大事にしています」

ある意味、緊張感のある日々だ。人によっては、苦手な環境だ...と思うかもしれない。しかし彼女は、"ひとつとして同じことがない"というところに楽しさを見出している。「好奇心旺盛なんですよ」と、ごく自然な笑顔で語る彼女の表情を見ていただければ伝わるだろう。
「お仕事、楽しそうですね」という言葉に「そうですね!」と笑顔で答える中山さん。こちらでの仕事は、現在6年目なのだそう。それまではどんなことに携わってきたのだろうか?
「社会人1年目は、特にインテリアに直結する仕事というわけではなく、営業事務をやっていました。でも"やっぱりインテリアに関わる仕事がしたい、夢を叶えたい!"と思って、働きながら夜間のインテリアスクールに通い始めました」
夢を叶えたいと思った彼女は、ここでインテリア関連のスクールに通うという第一歩を踏み出す。当時一番興味があったという、"インテリアコーディネーター"の育成コースに進んだ。
「スクールでは、インテリアに関する基礎的なところを勉強しました。たとえば、内装材から照明・家具、人間工学にいたるまで...。そこで、ファブリックに強くひかれるようになって、スクール卒業後、輸入生地を扱う会社へ入社し、営業職に就きました。そこでヨーロッパの一流の生地をカーテンやクッションなどに縫製して納める仕事をしていました」
対"人"の仕事、そして製品になる前のマテリアルに対する興味。これは今の彼女にもリンクする部分だろう。そしてその後、現職場へ転職。前述のとおり「ubushina」というプロジェクトの立ち上げに関わることとなった。
「そもそもubushinaは、富山の高岡市でスタートした"漆そのもの"を事業化しようというプロジェクトが発端になっているのですが、その"技術を売る"というコンセプトに魅力を感じたんですよね。そして縁あってここで働くことになりました」
そんな彼女がそもそも"インテリア"に興味を持ったのは、いつの頃だったのだろうか?
「今振り返ると、小さい頃、モデルルームが好きだったことがきっかけかなーと。そこで最初に"インテリア"というものを知って、興味を持ったんじゃないかと思いますね」
話を聞くと、特段大きな出来事が彼女にあったわけではないそうだ。子どもながらに魅力を感じるものがあったようだ。
「そこから部屋の模様替えにハマるようになって、これは今も続いてますね(笑)。2、3カ月に1回くらいは、部屋の模様替えをしています」
彼女の模様替えは、何かを参考にして考える...というよりは、自分自身の使いやすさ、心地よさを求めて、気になったところを改善している感じだそうだ。
「そんなにこだわりがあるわけではないですけどね...」そう言って、彼女は笑っていた。

幼い頃には、"物"に魅力を感じていた彼女も、大人になってからは"人"に対する興味が勝ってきたそうだ。仕事を始めてからはますますそうなったという。
「たとえば、地方での職人さんとの出会いは、何物にも代え難いですね。想いを持ってやっている、そのこだわりなどに触れるとこちらも突き動かされるものがあります。
また、今の会社に入ってすぐに、ミラノサローネへ連れて行ってもらったことがあるんですが、イタリアデザインの巨匠アキッレ・カスティリオーニのオフィスを訪ねる機会がありました。そこで見たさまざまなものやそのものに対する思いなどを聞かせていただいたのですが、本当に貴重ないい経験でした」
インテリアの道を進もうと、スクールに通う一歩を踏み出してからは、"自然にひかれるもの"に導かれるようにして、歩んできた彼女。しかしそれは彼女にとって辿るべき道だったのだろう。
次は、そんな彼女が手掛け、携わってきた仕事について語っていただいた。

通常、大・小合わせて複数の案件を抱え、それらを同時進行で仕事を行っているという中山さん。早いものだと納期1カ月というものや、大きい建物のプロジェクトの時には2年越しというものもあるのだとか。
そういう仕事を通して、これまでに彼女が携わり印象に残っているものがいくつかあるという。
「この会社に入り、最初の大規模な仕事が、dunhillさんの期間限定イベントのスペース作りでした。これはいろんな意味で印象に残っていますね」
仕事の内容としては、期間限定で行われたdunhillのイベントのスペース会場を、ブランドイメージに合わせて作るというもの。ブラックホールのようなミステリアスな空間を演出したいという設計者のオーダーに合わせて、漆の艶っぽさを生かすことになったのだとか。

「ubushinaがスタートしてすぐ、ここまで大規模に漆を使ったことはなかったので、初めての試みでした」
漆というと、皆さんもご存じのとおりお椀やお箸、重箱というような食器類に使われることが多く、高価なものというイメージがあるのではないだろうか。というのも、漆は完成までに非常に時間と手間がかかる。まず最初の"木地がため"と言われる、木に生漆を吸い込ませるところだけでも、丸2日かかるという。
そういう手間や時間、費用がかかってしまう"手仕事"を、その案件での実現レベルにどれだけ近づけられるか?そこが彼女たちの仕事に求められている点でもある。
「dunhillさんの時には、これを改善するためにアクリルを下地に使うことにしました。こうすることで、下地処理の過程を省くことができ、結果、手間や費用の軽減にもなりました。また、下地をアクリルにしたことで、漆ウレタンの吹きつけという行程が可能になり、ここでも手間の軽減につなげることができました」
驚くほどの発想の転換である。漆そのものを知り尽くしているからこそ生まれたアイデアだろう。またこれと同じように、マテリアルの特性を最大限に生かした製作のエピソードがある。
六本木のミッドタウンにある、DEAN & DELUCAのアンティークミラーの話だ。

「当時、ニューヨークで流行っていた"アンティークミラー"を作りたいという依頼でした。アンティークっぽさを表現することはもちろん、鏡ですから写り込まなければならない。さあどうするか?ということになりました」
銀箔を磨いて光沢を出すという古来の技法をもとに、箔を薄くしてみたり、アクリルやガラスに貼ってみたり...いろいろ試行錯誤を重ねたのだとか。
「そして最後に辿り着いたのが、鏡に薄く伸ばした銀箔を貼るということでした」

こういうマテリアルの特徴や知識が常に必要な仕事。しかも単体で使うのではなく、あれとこれを組み合わせたらどうなる?というかけ算のような思考が求められる。
「私も今の仕事に就いてから覚えたことがほとんどです。今でも日々勉強ですね」

"挑戦の連続"。この言葉は、こういうところからも来ているのだろう。
インタビュー中、何度か彼女が口にした言葉がある。
「人とのコミュニケーション」そして「好奇心を忘れない」この2つだ。これは、彼女自身が日頃から大事にしていること。
対 職人、作り手、デザイナー、設計者、クライアント。とにかく彼女が仕事で接するのは"人"だ。普段から付き合いのある方もいれば、初めましての方もいることだろう。
そんな時に「意外と活躍するんですよ!」と彼女が話してくれたのが"指輪"。今回の取材当日も手につけていて、実は珍しいかたちだなーと思っていたのだ。
この指輪は、彼女が憧れる坂 雅子さんというデザイナーさんの作品である(※ 指輪については右枠を参照)。
「珍しい指輪ですねーってところから会話が始まって。今では私にとってのコミュニケーションツールですね」

そんなふうに始まったコミュニケーションを彼女は大事に育てる人だと思う。もうひとつの「好奇心を忘れない」ことにまつわる、こんなエピソードがある。
「日頃、工場とか職人さんのところへ行って、疑問に思ったことは質問攻めにするくらい聞きます。特に職人さんがいつも使用する道具のこととか、その道具の使い方とか。基礎の部分をきちんと理解して提案したいんです」
彼女が工場などに足を運ぶということは、そこから提案する相手がいるということだ。また提案するためには、そのものをじっくり知っておきたい。どちらの立場も大事に考える彼女なりの想いがそこにはあるのだと思う。
そしてインタビューの最後に、日々挑戦を続ける彼女に、この先やってみたいことは?という質問を投げかけてみた。まずは仕事の面において。

「私たちの強みは、職人ネットワーク。日本全国で活躍中の作り手の方々と密につながっていることで、その素材や技術の歴史、由来、生産背景や特性といった情報がきちんと入ってきます。そういうことを知ったうえで新たな提案が出来る体制を作っているんです。私自身も単にきれいなものを作るだけに留まらず、そういった提案をもとに、巡りめぐってその土地へ目や足を向ける人が増え、地域の活性化につながるようなものづくりのお手伝いができればいいなぁと。ちょっと壮大プランですがそんなことを考えています 」
"手仕事"の技術が地域活性化につながる。そして日本全体が元気になったら、みんなが笑顔になれる素晴らしいことだ。
では、仕事以外ではどうだろうか?続けて彼女に尋ねてみた。
「固定概念にとらわれず、ジャンルを広げた付き合いや考え方をしていきたいですね」
これはこうだから、あの人はああいう人だから。そんな固定概念という物差しで測ることは簡単だ。しかしそれを敢えてサラにする。それは彼女の仕事に対する姿勢にもつながっていることだろう。
またさらに、こんな夢についても語ってくれた。
「感謝の気持ちを込めて選ぶ贈り物ってありますよね。普段は意識しなくても、そういった時に自分のルーツに回帰したり、改まってみたり、場合によっては少し背伸びをしたり。たとえば、結婚式の引き出物のようにそういう人生の節目に贈るものに、私が今関わっている"手仕事"を絡めて提案するようなお手伝いをしてみたいですね」
日本には、まだまだたくさん技術力の高い"手仕事"がある。もしかするとそこに住んでいた人でさえも気づいていないものがあるかもしれない。そういうものを、現代に合わせたかたちで贈り物にするというのは、ステキな話だ。

私たちが普段、何気なく目にしている場所にも、今回紹介したような仕事が隠れているかもしれない。そう思って改めて向き合ってみると、新しい発見があるはずだ。
株式会社 t.c.k.w
http://tckw.jp/
中山さんが携わる
「ubushina」プロジェクトは
http://www.ubushina.com/


目を引くマテリアルやサンプルがズラリと並ぶ、t.c.k.wのオフィス。入って奥に見える、カラフルな漆のパネルは、色だけでなくパターンの見本にもなっています。
ひとつひとつを手にとって説明していただくと、それぞれに興味深い背景・エピソードが。こういう仕事に携わる方にとっては、ワクワクする場所かもしれませんねー。
またこちらのオフィスにて、建築家やデザイナー、コーディネーターさん向けに、セミナーを行うこともあるのだそうですよ!
出勤
メールチェックや
電話でのやりとり
見積もりなど、内勤作業
ランチ後、外出
お客さんのところへ行ったり
工場に足を運んだり
帰社
製作にあたり図面を検証したり、
簡単なサンプルを作成したり
業務終了
「基本的に外に出ていることが多いですが、平均すると外出と内勤作業と、だいたい半々くらいの割合ですね」と中山さん。


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