People who are related to interior インテリアンな人々 第5回 有限会社レーベルクリエーターズ クリエイティブディレクター 熊谷 有記さん

「クリエイティブディレクター」という仕事は、この業界に限らずよく耳にする仕事だ。皆さんも一度は聞いたことがあるかもしれない。では具体的にはどういう仕事なのだろうか?
今回は、有限会社レーベルクリエーターズの熊谷 有記さんの場合をご紹介していこう。
キーワードは"日本のモノづくり 衣・食・住"。「日本のモノづくりは感動を覚えるほど、レベルが高いんですよ」と話す彼女は、その心の揺さぶりをモノ・コトに落とし込んで使い手である私たちに提案する、そんな仕事をしている。

今だけじゃなく、未来にもいいものを。というコンセプトのもと活躍する、熊谷さん。彼女ならではの「クリエイティブディレクター」としての仕事ぶりをぜひご覧いただきたいと思う。

interior(n)interview デザイナー時々店番、時々...

熊谷さんが働いている、レーベルクリエーターズは、大阪と東京にオフィスがある。今回私たちが訪ねたのは、東京・麻布十番にあるレーベルビル。オフィスのほか、ショップやカフェ、ギャラリーも一緒だ。その構成からも分かるように、レーベルクリエーターズがコンセプトとして掲げているのは「日本のモノづくり 衣・食・住」。今、自分たちが生活を通して必要とするものについて考え、作り、発表していきたい、作り手と使い手の想いをつなぎたい。そんな想いが込められている。

だからレーベルクリエーターズのモノづくりへの関わり方のスタンスには、独自のものがある。モノづくりの初めから終わりまで。こういうものがあったらいいんじゃないか?という提案から、モノづくりの工程の開発管理、そして使い手へ届けるための販売まで、すべて彼らが通して行っている。それには、作り手と使い手ができるだけ近い距離で...という考えのもとなのだそう。

「自分たちの目や手が届く範囲でないと、無理が生じると思っています。こういうモノづくりをコンスタンスに続けていくことが大事だと思うので...」 熊谷さんはレーベルクリエーターズでの活動の中についてそう語る。

そんなレーベルクリエーターズには、3つのプロジェクトがある。
MATE-RE-INNO(マテリノ)・SHIN-GI(心技)・ME-KIKI(目利き)。

まず「MATE-RE-INNO」とは、"マテリアルリノベーション"を省略した言葉。日本のモノづくりの中で出る端材を使って、製品を作るというプロジェクトだ。

「日本のモノづくりでは素材からこだわって作られているものが多いので、端材とはいえ、品質・技術ともにとても優れているんです。でもだからこそ、端材が生まれてしまう環境であるということも言えます。そんな端材たちをデザインの力で再生させ、新たな価値を見出すというのが、このプロジェクトのコンセプトです」

"端材"というと、本来捨てられてしまうことが多い。しかしそんな端材を彼女は"宝物"と言う。普段それらを見つけ出し、どうやって新しいものにするか?を考えている彼女だからこその言葉だ。

そして「SHIN-GI」は柔道等でよく聞く「心技体」からモノづくりの心と技を伝えるモノを作りたいと、自分たちで企画したものを職人さんたちと一緒に開発していくプロジェクトだ。ここでは、実際に自分から「一緒にやりませんか?」とアクションを起こすことからスタートするのだそう。心からその素材を愛せるからこそ、職人さんたちの心を動かし、ひとつの商品への完成につながるのだろう。

それから「ME-KIKI」は言葉の響きのとおり「目利き」のこと。日本のモノづくりの仕事から生まれる商品を、レーベルクリエーターズが独自にセレクト(目利き)して紹介するプロジェクトだ。MATE-RE-INNOやSHIN-GIというレーベルクリエーターズオリジナルの商品開発があるからこそセレクトされる、そんなモノたちが揃う。


これらのプロジェクトに、熊谷さんはすべて携わる存在だ。時にMATE-RE-INNOで使えそうな端材を探し出し、相手に交渉し、それらに新しい息(デザイン)を吹き込む。そして、SHIN-GIで作りたい製品のアイデアを考え、職人さんたちと相談。また開発工程を管理しながら、3つのプロジェクトから生まれるモノたちを、レーベルビルのショップスペースで販売する。

そんな一人何役もこなす彼女の仕事場は、ショップスペースと兼用なのだという。本当にレーベルビルのショップを訪ねると、ショーケースの後ろに彼女のデスクがある(左下写真のとおり)。実にユニーク!「モノづくりの始めから終わりまで」「自分たちの目が届く範囲でないと...」という彼女の言葉が、本当にそのまま実現されているということがよく分かる仕事場だ。

このようなレーベルクリエーターズの仕事に携わる彼女は、これまでにどのような道を歩き、またなぜこういう世界に出会うことになったのだろうか?次ではそんな話をうかがってみた。

interior(n)interview マテリアルや職人さんにたくさん会えるかも!

取材の途中、「私の実家、材木屋なんですよ」と語る熊谷さん。では昔からこの世界が身近な存在だったということなのか?というと、そうでもなかったそうで...。多くの場合がそうであるように、彼女は「どうやって実家から離れるか?」ということだけを、大学進学時には考えていたのだと話す。


そうして進んだ大学では商店街の研究をし、フィールドワークに勤しむ日々。何度も商店街に足を運んでいるうちに、ソフトを具現化するすべとして、"デザイン"でできることに興味が向き、本格的に学んでみたいと思うようになったのだそう。そこで大学卒業後、彼女は専門学校へ進むこととなる。
彼女が進んだ専門学校は、スペースデザインカレッジという学校。そこでは空間デザインを学んでいたのだという。実はその時の講師だった岩本 勝也氏が空間デザイナーであり、今彼女が働くレーベルクリエーターズの代表である。

「この世界に進むことになったきっかけは、その大学での経験だと思いますが、だんだん空間デザインの勉強を進めていくうちに、木に興味が出てきて、実家の材木屋のことも考えるようになってきました」

その専門学校を卒業後、彼女は岐阜・飛騨高山にある、オークヴィレッジという木工家具を扱う会社に就職する。そこには工房とショールームが隣同士にあり、そういう環境に彼女はひかれたのだという。

「オークヴィレッジに勤めている頃に、代表の岩本から連絡がありまして。"今、何してるんだー?"と。今度、新しいプロジェクトをスタートさせるから、一緒にやらないか?という話でした」

その新しいプロジェクトというのが、レーベルクリエーターズでの3つのプロジェクト。彼女が加わるまでに、今のMATE-RE-INNOにつながる、鉄展・木展というのが行われていたのだが、今のように継続したプロジェクトではなく、期間限定のイベント性、メッセージ性の強いものだったそうだ。
「私が参加したのは、布展から。この布展からは、展示だけでなく販売するところまでやっていきましょうということでスタートして、今に至っています」

でもなぜ彼女は、岩本氏から連絡を受けた時にこのレーベルクリエーターズに自分も参加してみようと思ったのだろうか?


「小さい頃から木の端っことか石とか、そのあたりに転がっているこまごましたものや、お菓子の箱とかを集めるのが好きでした。職人さんの仕事も好きでしたね。これは今の自分にもつながっているかなと思います。そういうことを代表の岩本も知っていて、レーベルクリエーターズに参加しないか?と声をかけてくれたのではないかと思います。実は岩本もマテリアルマニアなので、参加したらいろんな素材や職人さんに出会える機会が増えるんじゃないか?という、そんな淡い期待もありました(笑)」

そんな彼女の期待は、現実のものとなる。普段から使っていた帆布のカバン、偶然手にした肌触りバツグンのシャツ...そんな自分が惚れ込んだものの作り手を訪ねて、きっかけを見つけていった。最初、作り手の皆さんからは「変わった子だな...ゴミが欲しいの?」と思われることも多かったそうだが、今では大事なパートナーとなっているのだという。

次では、レーベルクリエーターズでの作り手とのエピソードや携わった仕事についての話をご紹介していこう。

interior(n)interview 正しく情報を伝えるために丁寧に売る


熊谷さんがレーベルクリエーターズで働き始めて、まず最初に携わったのがMATE-RE-INNOプロジェクトの「ORI」シリーズである。こちらは、京都の信三郎帆布の端材を使って作る、"布"モノだ。

元々こちらのカバンを使っていた熊谷さん。カバンが作られる工程の中で、もしかして布の端材が出ているんじゃないか?そう思った彼女は、すぐ行動に移した。電話をかけ、実際に信三郎帆布さんを訪ねて話を聞いてもらったのだとか。最初こそ相手も驚かれたようだが、結果「どうぞ」と快くご提供いただけることになった。

「端布をもらったはいいけれど、さてこの端布をどうしようか?と。布をあれこれ触りながら考えました。ファスナーをつけて...とかだと、信三郎さんのところの商品と変わらなくなります。同じようになったのでは意味がないんじゃないかと。あと、完成品を作るまでの工程数もできるだけ少なくしたかったんです」


そこで考えられたのが、端布を折って作る「ORI」シリーズだった。信三郎さんのところの布はカバンの素材なので、表面に加工が施されていた。そのため折るときれいな折り目がつくという特徴があり、これを生かしたアイデアだった。現在このシリーズには、名刺入れ、ペンケース、コインケースがある。どれも端布の色や特徴を生かした商品になっている。今でもこちらの「ORI」シリーズは、彼女をはじめとするスタッフの手によって折られているそう。


またほかにも、彼女にとっては思い出深いエピソードがあるという。

「それは今城さんとの出会いです。たまたま自分が手にしたシャツの手触りや着心地がとても良くて、ぜひ一緒に仕事をしたい!と思ったので、自分から声をかけてみました」

彼女が手にしたシャツというのは、"今城メリヤス"という和歌山で作られている生地で作られたものだった。シャツについていたタグを頼りに、今城さんのところを訪ねたのだそう。

「実際にお会いして話を聞かせていただいたら、今城さんのところでは"吊り編み機"という機械で生地を編んでいることが分かりました。これは、天井から吊した編み機で筒状に布を編む方法で、編み上げられた布は下に置かれたたらいにゆっくり溜まっていきます。これが実は糸にとってストレスのない編み方で、丈夫で気持ちのよい生地が出来上がるんです」

ゆっくり編むこともあり、生産性を考えると効率があまり良くないため、今では見かけることも少なくなってしまった吊り編み機。それでもこの着心地と肌触りを生かした商品を何とかして作りたい!そこで生まれたのが、MATE-RE-INNOから「MUSUBU」、そしてSHIN-GIから「TSUTSU」という商品だ。


「今城さんとの出会いは、偶然に手にしたシャツでしたが、今ではレーベルクリエーターズのすべてのプロジェクトでご一緒いただいています。これも何かの縁だと思いますが、とてもありがたいことです」

これら2つのエピソードは彼女が携わってきたことのごく一部だ。しかしすべての商品において、使い手である私たちに届ける際、彼女たちがこだわっていることがある。それは、モノを売る時にはきちんとした"説明"が必要だということ。

「その商品ができるまでの過程、どんな背景があるのか、そういうことを正しく伝えて丁寧に売ろう。これは信三郎帆布さんと約束していることでもありますが、私たちが考えたことや作り手が思っていることが、ストレートに使い手にも届くというのがレーベルクリエーターズの良さでありコンセプトです。そこは大事にしたいですね」


今回記事では紹介しきれなかったが、レーベルクリエーターズの商品は皆どれも興味深い背景・エピソードを持っている。それをきちんと伝えたい。だから彼女は自分で店番をし、お客さんと会話をしている。きっと彼女から話を聞くと、あなたもその商品のファンになってしまうはずだ。それくらいグッと来るエピソードが満載なのである。

interior(n)interview 自分の五感の反応に耳を傾ける

熊谷さんは"これいい!"というものに出会った時、盛り上がる気持ちを少し抑えて、自分自身に3回くらい「何で?」と尋ねるのだという。

「まずは五感を研ぎ澄ましていろんなものに触れ、"これいい!"と思うモノにたくさん出会うことを大事にしています。そのうえで、"本当にいい?何でいいと思う?"と、自分自身に問いかけるんです。そうしてじっくり向き合うことで、見えてくるコトがあります」

基本的に自分の五感を信じるようにしているという。さらに自分へ何度も問いかけることで、本質に詰め寄っていくのだろう。それくらい慎重に、大事に考えるからこそ生まれるものがあるのだと、彼女の話から口ぶりから非常に伝わってくる。
またそういう彼女の真摯な姿勢に、作り手も引きつけられているのではないだろうか。彼女はインタビューの中で、「作り手と一緒に作っている」と話していた。それはきっと作り手の方々もそう感じていることだろう。

作り手と向かい合う時の彼女の熱意には、使い手の気持ちがしっかり見えるし、使い手に商品を紹介する彼女の言葉には、作り手の思いがこもっているからだ。

そんな彼女に、これから挑戦してみたいことを最後に尋ねてみた。


「まだまだ出会ったことがない素材や技術はたくさんあると思います。だから、そういうものにどんどん出会いたいですね。そしてこれからも、その素材や技術の持つ特性を生かしたモノ作りを、長く続けていきたいです」

インタビューの最初にも、彼女は"長く、コンスタントにモノづくりを続けていきたい"そう語っていた。確かに、今、レーベルクリエーターズが取り組んでいるプロジェクトは、続けていくことが大事だ。それは一過性のものではなく、生活に根付く、使えば使うほど良さが分かる、そういうモノづくりを目指しているのが彼女たちのプロジェクトだからである。レーベルクリエーターズのプロジェクトが続いていくということは、技術力の高い日本のモノづくりが健在であるということでもあるのだ。


彼女の言うとおり、まだまだ日本中にはすばらしいモノづくりがたくさんある。きっと彼女はこれからもたくさんの"感動するモノ"に出会うことだろう。それがまた、彼女の"デザイン"と作り手の皆さんの"技術"と掛け合わさって、新しい可能性を秘めたモノとして生まれるのが今から楽しみだ。

有限会社レーベルクリエーターズ
http://www.label-creators.com/

Labelcafe・shop・gallery(東京)
東京都港区1-11-49 レーベルビル
tel: 03-5444-6677
営業時間:cafe 9:00〜17:00
     shop・gallery 10:00〜17:00
定休日:火曜

Labeldining tetote・Labelshop(大阪)
大阪府大阪市北区西天満1-1-11
レーベルビル
tel: 06-6366-1161
営業時間:tetote 11:30〜23:00
     shop 平日13:00〜19:00/
     土祝12:00〜18:00
定休日:tetote 日曜 shop 日・月・火曜

レーベルクリエーターズ
レーベルクリエーターズ


写真は、上が東京・麻布十番のレーベルビル、そして下がカフェの様子。こちらの店内でレーベルクリエーターズオリジナルの家具や雑貨に触れられます。

熊谷 有記さんのライフバランス


9:00-10:00の間に出社

店番をしながらメールチェック
(作り手/販売サイドそれぞれへ)



Labelcafeでランチ

図面やスケッチ製作
月末になると、
経理をやることも...
だいたい17:00以降に
作り手さんとの連絡が
密になることが多い



20:00-22:00の間に業務終了

これらのほか、お店のチラシやPOPを作ったり、商品の写真を撮ったりなども行っているそう。

熊谷 有記さんへQuastion

Q.
仕事の上で欠かせないものは?
A.
筆記用具、ノート、スケジュール帳ですね。
熊谷さん愛用の筆記用具、ノート、スケジュール帳 筆記用具の中には、メジャーや三角スケールも欠かせません。
Q.
気に入って集めているものは?
A.
木の端っことか石とか、こういうものを小さい頃からよく集めています。

それが講じて、MATE-RE-INNOの「KIKORO」シリーズができました!
きころこれは、建築の時に使う木材を製材する際に出る、木くずを粉砕する過程で出る木の節部分"きころ"を使って作られています。"きころ"って私たちが呼んでいるだけなんですけど、木くずを粉砕する時に、そのきころは風で飛ばされてひとつの箱により分けられるんですが、その中でコロコロと転がっているんです。そうしているうちに、角が取れてコロッとしたかたちになるんですよ。

また、白いシャツも集めているもののひとつです。"白"って、ストイックな感じがするんですよね。縫い目とかいろいろ"隠せない"そういう感じにひかれます。
Q.
今読んでいる本は?
A.
まず、長田 弘さんの「空と樹と」という本。美しい詩と絵から構成されていて、ひと息つきたい時に広げてうっとりします。「空と樹と」
それから、「七十二候 美味禮讃」という食べ物についてイラストでつづられている本。日本ならではの季節が生み出した食材や古来の調理法について書かれています。 今とても旧暦に興味があって、いろいろ読んでいるうちに出会った1冊です。
特に自然のものと月には深い関係があるのだそうです。たとえば木は、新月それも特に冬場に切るのがいいと言われています。その頃に切った木はくさりにくくて、使う時にも素直なのだとか。不思議ですよね。

なので、旧暦について書かれたスケジュール帳も使っていて、それには自分の体調など書き、実験しています。どれくらい私の体が月とリンクしているのかなと思いまして...。「七十二候 美味禮讃」とスケジュール帳
そして最後に「木工材料」という教材。これは今読んでいるというよりは、木について知りたい時に見る本です。飛騨高山で働いている頃に、併設されていた「森林たくみ塾」というところに、木の勉強をしに行っていたのですが、そこで使っていたものです。
今、木にもとても興味が向いてきていて、おもしろいなと思うようになりました。木ってひとつずつ表情が違うんですよね。それぞれの種類や特性を生かして、木を使ったモノづくりも少しずつ始めています。 「木工材料」
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