以前、橋本氏の連載ページで「注目している人」としてご紹介した、澤 彰洋さん。すでに記事をご覧になって、彼がどんな方なのか?というところはご存じかもしれない。
連載第6回「澤 彰洋さん×橋本 直征」
その取材で話をうかがっていくうちに「ブランディングディレクター」という仕事に非常に興味を持ったので、今回「インテリアンな人々」でもピックアップしたいと思う。
今回は、「ブランディングディレクター」として活躍する、澤さん自身にもう少し迫りつつ、"インテリア"自体との出会いや仕事をするきっかけになったエピソード、そしてこれからどんなことをしていきたいと考えているのか。そんなことをご紹介していく。
元々、広告業界でコピーライターやCMプランナーなどの仕事をしていたという話は、以前ご紹介したとおりだが、ではどこで「インテリア」との出会いがあったのだろうか?
「インテリアに魅力を感じ、強く意識するようになったのは、イギリスへ留学した頃。海外では賃貸のアパートでも、内装を自分の好きなようにやりたいようにできるんですよね。僕も壁の色をどうしようか?というところから考え、まず塗りました。基本的に原状回復の必要はないので、何でもOK。どんどん試せるので失敗しても楽しい!と思える環境がありました」
イギリスへ渡る前も日本でひとり暮らしをしていたという澤さん。しかし日本では、皆さんもご存じのとおり制限がいろいろあり、思い通りに自分の空間を作ることはできなかったのだそう。事実、澤さん自身は留学前は、インテリアよりは洋服などに興味があり好きだったという。
「自由に自分の空間を作るのに、いろいろなことができるんだ!ということを知って、ハマりましたね。アパート自体の内装のほかにも、ソファなどをもらって来てレイアウトしたり...。日本でアンティーク家具として売られているような家具が"ご自由にお持ちください"と家の前に置いてあり、タダで譲ってもらえる環境があるのにはビックリしましたね」

海外では"物を大事にしながら、購買意欲もある"と澤さんは話す。いらないものを捨てるのではなく誰かに譲ってから、新しいものを手にする。そういう文化が根付いているのだそう。インテリアがとても身近な存在だったと彼は振り返る。
「僕も帰国する時には、それまで使っていた家具などを譲るために、自宅でガレージセールをやりました」
そんなふうにインテリアと向き合うようになった澤さんは、帰国後そして今現在も、できる限り、自宅や事務所の物件を借りる際には、大家さんと交渉のうえ、自分で手を入れられるところを選ぶようにしているのだという。
「入居する時に、手を入れて良いか?というのが物件を選ぶポイントになっています。大家さんに原状回復しなくてもいいように、"現状より良くします"という方向で交渉するんです。でもたとえ回復費用がかかっても、数年住んでで数万円くらいの費用。せっかく住むなら楽しまないと!そう思っています」
今回取材でお邪魔した事務所も、窓枠や階段手すりなど内装全般に手を入れているのだそう。
こういう身近なご自身の毎日の暮らしの部分でも、インテリアを身近に捉えている澤さん。「ブランディングディレクター」として仕事の視点では、"インテリア"をどのように感じているのだろうか?
「インテリア業界については、まだまだ伸びしろがあるし、そこにチャンスがあるのではないかと思っています。海外では、日本の建築家やデザイナーなどは広く知られていますが、認知されているインテリアブランドというとあまり多くないと聞きます。世界的に有名な展示会に出展される企業、ブランドは年々増えているので、海外でももっと広まり、多くの人に使っていただければいいなと思います」
以前のインタビューでも、まだ日本のインテリア業界にはチャンスがあるということを話していたが、海外との状況を見比べてもそう感じることが多いのだそう。
「海外へ行くと、日本の良いものを海外へ伝えたい。そんな志向になりますよね。僕もそう考えていて、単純に自分のブランディングしたものが海外で認知されるようになるといいな、そのために自分にできることを何かしたいと思っています」
"ブランディング"という仕事をしていくにあたり、まだまだ伸びしろがありそうというところにひかれ、「インテリア」業界と関わり始めた澤さん。
次はそんな澤さんが、これまでの経験で「ブランディングディレクター」の仕事に活きていると思うことや関わった仕事のエピソードについてご紹介していく。
今、ブランディングディレクターとして活躍する澤さんは、以前広告業界にいたからこそ、"ブランディング"ということに興味を持ったし、現在の仕事につながっていると話す。その辺りの話は、以前の連載ページ取材の時にも話をうかがったので、ぜひそちらをご覧いただきたいと思う。
では、その広告業界にいた頃の経験で今の仕事に活きていることとは、どんなことなのだろうか?
「いろんな角度から物を見るということでしょうか。広告を考え、作るうえで、"新鮮な目で見る"というのは結構大事なんです。その業界にいると中の世界にどっぷりになって、案外、外から見られないものなんですよね」
広告を作る時には、お客さんの伝えたいことを分かりやすくユーザーに伝えるということが求められる。そのためにいろんな角度からできるだけフラットな視点で見るというのは、広告を作る者にとっては必須のスキルだ。
それを知っているからこそ、今ブランド側で仕事をする時にも活きることがあると、彼は話す。

「今、自分もブランド側で仕事をしていると、自分の商品やサービスについていろいろ伝えたくなるんです。今になって、広告業界にいた頃のお客さんの気持ちがよく分かりますね...(笑)でも"シンプルに伝える"ということを心がけるようにしています」
伝える側になると、つい忘れてしまいがちなことを"忘れないように"と思えることはブランディングディレクターとしての強みになっていることだろう。また広告を作る前の"ブランディング"の段階でそれを心がけられるというのは、澤さんならではなのではないだろうか。
また、これまでに前述のイギリス留学を含め、約30カ国を旅してきたという数々の経験も、漠然とだが今の仕事に活きていることがあるという。
「海外に行くと日本の良さを感じることってありませんか。日本ほど住みやすいところはないよなーといつも思うんです。たとえば、水回りがずば抜けて良いとか、電車が時間通りに来るのが当たり前とか...。でもそういう良さを再確認することと同時に、日本は安全な分、決まりごとが多いとか自由が利かないとか、そういう"外から見た日本"というのも感じます」
つまりは客観的な視点ということになるだろうか。物事をいい意味で俯瞰する視点を持つことで、新しいアイデアが引き出される。彼のこれまでの経験は、そういうことにつながっているように感じた。

そんな澤さんが「ブランディングディレクター」を始めて携わった仕事たちは、"インテリア"とひとつにくくり切れないほど幅広い。そんな中で一番印象に残っている出来事とは?と尋ねてみた。
「ブランディングディレクターになって最初に携わったFRASという額縁のブランドの仕事をしていた頃、意匠照明(Luminabella)・キャンドル(DEICA)・額縁(FRAS)の3ブランド共同で、あるレセプションパーティーをやったんです。コンセプトは、"Emotional Luxury"。照明・キャンドル・額縁をメインにして、ホテルの客室という空間をどれだけ演出できるか?というものでした」
意匠照明・キャンドル・額縁。どれも、「たとえ空間になくても生活できるものだと思う」と彼は語る。しかし同時に、そういうものは感情的に欲するもので、これこそ"インテリアの個性"であるという。
「何か分からないけど欲しいと思う気持ち。こういうものがないと、インテリアはつまらない。直接必要ないものがあるから、そこに深みが出るんだと思っています」
実際、そのパーティーの空間に使われた家具は、無記名のシンプルなものだったという。でもそれにより、メインの照明・キャンドル・額縁はさらに引き立ち、その日訪れた1200〜1300人の訪問客を魅了していたという。
そして現在、澤さんの活動の軸になっているのが「DECOLT」という、ブランド公認アウトレット家具ショッピングサイトの運営だ。いわば立ち上げ時のブランディングから、販売、そして運営とトータルで携わっている。
そんなこの「DECOLT」のスタート時のエピソードも、澤さんにとっては印象的なものだったようだ。
「2009年にDECOLTはスタートしたのですが、その1年前からわずか数枚の企画書とティザーサイト(正式リリース前にプロモーション用に公開するWebサイトのこと)を作って、各ブランドを廻っていました。これまでの仕事を通して、少しはつながりがありましたが、実際のサイトも販売実績もありませんでしたから、ほぼゼロからのスタート。他に同じようなことをやっているところもありませんし、最初はやりたいことを分かってもらうのにも大変でした」
アポイントを取るためにメールなどをしても、当時は連絡が取れないことも多々あったという。それでも少しずつDECOLTの思いを理解してくれる人が増えてくるにつれ、周りの反応も変わってきたのだそう。
「DECLOTのことを分かってもらうとか、契約してもらうとか、その過程で大変なこともたくさんありましたが、楽しかったですよ!」
本当に何でもなかったように話す澤さん。しかしゼロから作るというのは、厳しいこともたくさんある。それは皆さんも想像がつくだろう。けれどもそれを"楽しい"と思えるか、思えないか。そこには大きな違いがあるのではないだろうか。

ブランディングという仕事をする中で、澤さんが一番うれしい!と思う瞬間があるという。それは"お客さんからの声が届いた時"なのだそう。
「自分がプロデュースした商品やサービスを、お客さんが対価を払って買ってくれたり、喜んで使ってくれたりする。これは非常にうれしいですね。これまで自分自身、その場で衝動買いできるような安価なものを手掛けてこなかったので、余計にそう思うのだと思います。だから、そういうお客さんからの声が届くと、さらにうれしいですね」

ブランディングをして、カッコイイものを作っても、結局売れなくては意味がない。そして澤さん自身も面白くないという。それではブランディングしているとは言えないのではないか、彼はそうも語る。
「誰かが買って、手に入れて良かったと思ってくれる。もしくは誰か大切な人のために選んで買ってくれる。ずっと使ってくれる。単に高価なものだということではなく、"誰かにとって特別な価値を与えてくれるもの"、そういうものが"ブランド"だと思っています」
その物に新しい価値を付けて、新たなニーズへと発信する。それが彼のブランディングのやり方のひとつだと、以前の取材でもそう話をうかがった。それは一見すると、目新しいことをする=ブランディングというふうにも捉えられてしまいそうだが、実際のところはそうではない。次の彼の言葉から、それがよく分かる。
「手にして喜んでくれる、あそこで買ったんだーと言いたくなる。そういうのがブランディングだと思っています。世の中にはたくさん物があるのに、その中から選んでくれることは、ユーザーに思いが伝わった証しだと思いますし、純粋にうれしいです」
自分の生み出したアイデアによって、商品がより世の中で認知されていく。今すでにあるものに新たな価値を加えることで良い方向に変わっていく。そういうことが、"ブランド作りの醍醐味である"と彼はいう。とてもシンプルなことだが、そんな醍醐味を感じられることが原動力になっていることは確かだろう。
しかしそれもアイデアが生み出されて、初めて味わえる喜びである。そんなアイデアをカタチにするために、心がけていることはあるのだろうか?
「たとえば打ち合わせの時、基本しゃべりに徹しているので、ほとんどメモを取りません。でも打ち合わせのあと、すぐに作業に取りかかることを心がけています。できる限り、その打ち合わせの時のフィーリングが自分の中にあるうちに、ひとつのカタチにしておくんです」
実際、澤さんの打ち合わせ後のメモには、単語ひとつということも少なくないのだという。でもメモを取るということに注力するより、アイデアをいろいろ出してその場で膨らませることのほうが、彼にとっては確実なものにつながるのだろう。
「そうしておくことで、時間が経ってから"あれ、あんまり面白くなかった..."と思うことが少なくなります。また、その後時間をかけて取りかかる段階でも、作業がスムーズになんですよね」

とはいえ、ゼロからモノを生み出す時につきものなのが、行き詰まってしまうこと。悩まされている人も多いのではないだろうか。澤さん自身はどうなのだろう?そういう時の解消方法について尋ねた。
「疲れることはありますね。そういう時は、カイロプラクティックやリフレクソロジーに行きます。そしておいしいものを食べたら、もうそれで完全にリフレッシュできますね!」
ご自身で料理をするのが好きで、家に友人を招いてパーティーをすることもあるという澤さんは、"おいしいもの"が元気の源なのだそう。おいしいものとアルコールという組み合わせももちろん好きだということだが、リフレッシュするにはシンプルに食べることだという。
「でもカイロプラクティックなどのお店が空いていないような時間の場合もあるので、その時には映画を観ます。寝る時間を削ってでも...。映画を観ると感情移入して没頭できるんで、それが気持ちの切り替えにもなるんですよ」

ご自身のプライベートな時間で切り替えをする術をしっかり持っていらっしゃる、澤さん。それがあるからこそ、仕事をする面で全力が発揮できるといっても過言ではないだろう。
最後に、これから澤さんが挑戦してみたいこと、やってみたいことについて尋ねてみた。その答えの源には、インテリア業界を少しずつでもいい方向に変えていきたい、そういう思いがあるようだ。
「一番やってみたいなと思っているのは、賃貸向けの仕事。アパートやマンションの会社とコラボレーションして、若者がもっとインテリアを気軽に楽しめる物件や場を作っていきたいんです」
澤さん自身が、イギリスに渡って体験したこと、そしてあのワクワク感。それをもっと日本でも広めていきたい。そういう思いがあるのだと彼は話す。
「20代前半って、お金はあんまりないかもしれないけれど、いろんなことに興味がある世代ですよね。そういう時にもっと気軽にインテリアに触れて楽しんで欲しいんです。たとえば家具を買うにはそれなりのまとまった費用がかかるので、若いうちに手が出ないとしても、自分で壁を塗るくらいなら、もっと安価にできて劇的に空間が変えることができる。でも現状、そういうわけにはいかないので、それをどうにか変えていけないかなと思っているのです」
原状回復しなくていい、もっとラフな感じで楽しんで、どんどん人が入って出ていき、そしてその空間が良くなっていく。そんな場があれば、たとえ相場より1万円高かったとしても、借りたい!という人がいるのではないか。澤さんはそんなふうに考えているのだそう。
そしてまた彼は、そんなアイデアを積極的にいろんな人に話すことにしているのだという。そうすることで実現できることもあるんじゃないか?というのが、彼の持論だ。

そんな彼に、これから挑戦してみたいことを最後に尋ねてみた。

「自分が何か関わることで、変えていけることがあれば...。そう思って始めたのがブランディングでした。だから"インテリア業界"に小さいところからでも変化をもたらせることができるのなら、どんどん関わっていきたいです」
澤さんは最後に「エンドユーザーに対して、社会に根付いた取り組みをしていきたい」と語っていた。今あるものに新しい価値をつけることで、さまざまなものを変えることができるのが、ブランディングだ。それが商品である場合もあるし、サービスやブームという場合もあるのだと思う。

私たちが日々の暮らしの中で手にするもの、体験するものは、たいていブランディングされて世の中に出てきているはずだ。それをあえて実感しなくてもいいかもしれないけれど、何かいいものに出会ったときには、それらを大切にしていく気持ちを持ちたいなものだ。
株式会社デコルト
http://www.decolt.com/
日本初のブランド公認アウトレット家具ショッピングサイト「DECOLT」。澤さんがブランディングから販売までトータルで携わる仕事のひとつ。
素材サンプルのお取り寄せはもちろん、実際にサイト上で販売している現物をブランドのショールームで確認できるサービスやサイトに載っていない家具のアウトレットもリクエストできるサービスなど、ブランド公認だからこその企画が満載。

起床
朝ごはんを食べたり、
メールチェックをしたり
打ち合わせや作業
打ち合わせの日、作業の日と
できるだけ分けるようにしているのだそう
できる限り、
食事に行ったり、友人と会ったり
(もちろん仕事になってしまうことも...)
帰宅後、メールチェックをしたり、仕事を少ししたり
就寝
平日/土日関係なく、このようなスケジュールで生活しているという澤さん。
仕事をする時間も友人と過ごす時間も、
どちらも大切にしているということが
伝わってくる。

まず「徹底のリーダーシップ」(ラム・チャラン 著)。ユニクロの柳井さんオススメの1冊だったので、読んでみました。ビジネス書は自分のマインドの確認になりますね。
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