連載「○○×橋本 直征」 赤松 珠抄子さん×橋本 直征 interior(n)interview Vol.10-1
「『インテリアン』に、いつか出ていただきたいと思っているんです」
橋本氏は以前からそのように話していた。その相手とは、今回ご登場いただく赤松 珠抄子さんだ。
赤松さんと橋本氏の出会いは、約10年前のこと。彼はインテリアデザイナーである赤松さんのアシスタントとして、インテリア業界で働くためのイロハを学び、インテリアスタイリストとして歩み始めた。
今回は、そんな彼にとって"師匠"にあたる赤松さんに、ご自身のこと、彼がアシスタントとしてやって来た頃のこと、当時一緒に手がけた仕事のことなどについて、お話をうかがった。
そして、お二人の仕事に非常に縁深い"カメラ"トークも。お互いをよく知るお二人だからこそ飛び出すエピソードにもご注目を!
interior(n)interview 現在につながる出会いは、"アシスタント募集"
現在インテリアデザイナー、フォト・エッセイストとして、世界各地を飛び回っている赤松さん。
建築やインテリアなど"空間"にフォーカスを当てた写真やエッセイを、雑誌やWEBなどで展開している。

美大卒業後、婦人画報社(現、ハースト婦人画報社)で、インテリア・建築系の雑誌編集の仕事をされていたのだという。そしてその後独立。
『CASA BRUTUS』(現、『Casa BRUTUS』の前身)の立ち上げに携わりながら、独立前から手掛けていた壁画制作の分野へ、そしてインテリアデザイナーへと活動の幅が広がっていった。
「ある仕事を通して、素敵な家で暮らしているのに居心地があまり良くない、使いづらいと感じている方々に出会いました。
また当時は、賃貸といえばたとえ納得いかない空間でも、我慢して住むしかなかったんです。インテリアショップも数軒しかなく、気に入ったものを部屋に...と思っても、なかなかなかったり、高額で買えませんでした。
でも、もし自分の手で改装やリノベーションができたなら、住む人にとって心地良い家・空間になるのでは?と。だったらまずは自分でやってみよう!と、木造一軒家に引っ越し、実験的に試してみました」
赤松さんの行動力には驚かされるものがあるが、その力が次のステップへと道を切りひらいていく。ご自身で改装した部屋で受賞、その後、『non-no』や『POPEYE』で"お部屋改造"の連載がスタートすることになる。

「雑誌連載がきっかけとなって、テレビ番組でのお部屋改装のコーナーを担当することにもなりました。次第に手がける仕事が増えてきたので、アシスタントを募集したんです。その時に来たのが、橋本でした」
アシスタント募集を知った橋本氏は、赤松さんのホームページから問い合わせをしたのだという。
「仕事のお問い合わせはこちらというところから、メールしてみたんです。その後ご返信をいただき、たしか履歴書や作品、課題などを送ったと思います」
結果、橋本氏はアシスタントとして採用されることになる。赤松さんが彼を選んだのは、"やる気があって、おもしろそうだな"と思ったからなのだとか。
「いわゆる美大生ではない彼らのセンスに興味があって、何かひとつでも"おもしろくなるかな?"と感じるものがある人と面接していたんです。彼もそのうちの一人でした。面接の時にも"スーツではなく、自分らしい服装で来てください"と言って、全体の雰囲気を見ていました」
そうして彼のインテリアスタイリスト人生がスタートすることとなった。
彼はアシスタント時代、さまざまな仕事を手伝いながら、インテリア業界について学んでいったという。その頃ともに手がけた仕事とはどんなものだったのだろうか?印象的なエピソードとともにお二人に振り返っていただいた。
「宮城・鳴子温泉にある"ゆさや旅館"の改装でしょうか。元々私の事務所に改装の依頼があったのですが、番組のロケも合わせて行うことになり、皆でうかがいました。限られたスケジュールだったこともあり、作業と撮影を同時進行。2日完徹で朝までかかったのを覚えています」
前述のテレビ番組の夏のスペシャルとして行ったそうなのだが、事前準備からなかなかハードなスケジュールだったようで、現地へ向かうロケバスの中で、橋本氏は熟睡してしまったのだそう。
「ふと前を見たら、橋本が豪快に寝ているのが見えて...。私は番組スタッフと打ち合わせ中だったので、慌てて傘か棒か何かで彼の脇腹をつついたんです。覚えてる?」
と、当時を思い出し語る赤松さん。さすがに橋本氏も覚えていたようで、「何があっても寝ちゃいけないですよね...」と思わず反省の弁でした。
しかしそれ以上に、橋本氏には印象に残っていることがあるのだという。
「撮影時の昼食で、先方が全員分の出前を取ってくださることになったのですが、自分はアシスタントだし...と、中でも一番安かったカツ丼を頼みました。そうしたら実物は想像以上に豪華で、結局先生に怒られてしまったんです。今でも忘れられないエピソードです(笑)」

赤松さんもその時のことをよく覚えていると笑う。
「あとで橋本の兄弟子にあたるアシスタントから真相を聞かされたんですが、実物は全然そう見えなくて、"橋本、やっちゃった..."と思ったんですよね(笑)
アシスタントのうちは、勉強をさせてもらいながらお給料をもらっているわけです。そういう状況ですから、撮影の合間でいただく食事は好きなものを楽しく食べる時間ではなく、最低限であるべき。自分が一人前になったら、自分で稼いだお金で好きなものを食べればいいのです。
ただ一方で、いろんな空間を知るのも仕事ですから、事務所のスタッフだけで行く時は、レストランや食事も仕事のひとつとして、みんなが興味のあるお店へ行っていましたよ」
スタイリストとしての仕事はもちろん、アシスタントとしての立ち振る舞いについても学ぶことがたくさんあったようだが、今でも続くお二人の関係の原点が垣間見られるエピソードだ。ちなみに橋本氏は、今自分のアシスタントにもその頃学んだ"心構え"をそのまま教えているそうだ。
カメラはデジタル派?フィルム派?
お仕事柄、カメラや撮影などに縁があるお二人は、ご自身のカメラや写真にもこだわりをお持ちなのだそう。ここからは"カメラ"をテーマにトークを繰り広げていただく。
現在、フォト・エッセイストとしてご活躍の赤松さんは「RICOHのGXR」を、インテリアのスタイリングのみならず写真制作の活動も行っている橋本氏は複数のフィルムカメラを、それぞれ愛用しているという。
「僕がアシスタントをしている頃は、赤松先生はパソコンもデジタルカメラも使っていなかったんです。基本、アナログで手書きでしたよね。だから先生がデジタルカメラで撮影をして、パソコンでレタッチまで行うようになるなんて、当時は想像もしていなかったです」
と語るのは、橋本氏。「私自身もびっくりよ!」と赤松さんも笑う。ではなぜ、デジタルカメラを手にすることになったのだろうか。
「きっかけは、RICOHのGX100との出会いです。自分が、キレイだ、好きだと思わないモノは持っていたくないと、常々思っているんです。そんな私のこだわりを知っている、カメラマンのリュウ・イツキさんに薦められました。GX100に出会った時、これなら首から提げていてもいいと思ったのが、そもそもの入り口でした。
さらに軽いということ、カメラ本体の比率が美しいこと、そして写真の色がすごく鮮明という点も気に入りました。
それまでは、Nikonのフィルムカメラをずっと使っていたのですが、GX100に出会っていなければ、デジタルカメラを使うことはなかったと思います」
GX100、GX200と経て、現在はGXRをご愛用中。すっかり惚れ込んでいらっしゃる様子が伝わってくる。
「海外でも各地のジャーナリストたちが、"何それ何それ!?"とGXRのレンズをシャカシャカと交換するたびにこのカメラに集まってくるんですよ。おもしろいみたいです」
現在はこのカメラとともに、世界を飛び回る日々だ。ワイド・望遠・高画質の3つのレンズを使い回し、世界各地で赤松さんが琴線に触れたものにシャッターを切る。


そしてこれらのレンズとカメラは、愛して止まない"NUNO"のガマグチに入れて持ち歩くというのが、赤松さんのスタイルだ。

「いわゆるカメラケースが好きじゃないので、このガマグチを使っています。でも実はカメラ本体は通常NUNOで売っているガマグチには入らなくて。どうにか入らないかとお店であれこれ模索していると、NUNOを主宰されているテキスタイルデザイナーの須藤 玲子さんが、"あなたにピッタリのガマグチがあるわ"と、ご自分で購入して保管されていた大きなガマグチをゆずってくださいました。
須藤さんの大切なガマグチを受け継ぐかと思うと、それだけで元気が出て、それからずっと愛用しています。
私はあまり固執して、あの店、このブランドと思うことはないのですが、NUNOだけは特別ですね」
ご自身のこだわりは貫きながらも、"デジタルカメラ"という新たなスタイルを楽しんでいらっしゃる赤松さん。
一方の橋本氏はというと、「デジタル世代なはずなのに、アナログ回帰していて、先生の逆を行っている気がする」と自身を語る。
以前の連載で取り上げたように、橋本氏はインテリアスタイリストとしての仕事と並行して、写真撮影の分野にも活動の幅を広げている。Miyamaの中判カメラやリンホフのカメラにシュナイダーレンズを付けた大判カメラのほか、スナップ用としてコンタックスT2を使うなど、撮影する際のメイン機は"フィルムカメラ"だ。
「もともとは、赤松先生のところでアシスタントをやっていた頃にデジタルカメラを使い始め、独学で写真を学んでいたのですが、スタイリストの仕事を通じて写真家と一緒に仕事をするうちに、フィルムカメラのおもしろさに気付いたんです。そして自分で写真を焼くことにも興味を持ち、そこで"覆い焼き"という技術に出会いました。自分でもやってみて、すごく感動してしまって!すっかりフィルムカメラにハマっていますね」
覆い焼きとは、たとえば青い空の写真で空の色がイメージより足りないなと思った時に、部分的に焼いて色を濃くすることができるという手法なのだそう。橋本氏はその仕上がりの美しさに魅せられ、今でもその写真を自室に飾っているという。
「写真は撮るだけでなく、現像してからも飾ったりアルバムにしたりという楽しみがあると思うんです。こういう楽しみ方はなくなって欲しくないなと。今、写真を撮ってもパソコンにしまったままという方が多いと思うので、もったいないと感じています」
と語るのは"フィルム派"橋本氏。それに対し、赤松さんは"デジタル派"として別の意見を持つ。
「私は、もともと人物入りの記念写真などをアルバムにして残さないので、今は、ハードディスクに入れておけばいいので便利だなと思います。
またフィルムや現像した写真は、温度や湿度での劣化などが心配です。その点はデジタルだと安心ですよね」
このような考えの違いには、それぞれの"写真"に対するスタンスが影響しているのでは?と橋本氏は考える。
「自分にとって写真を撮るということは、趣味のようなものです。好きに撮って良いし、だからあえてフィルムで撮っている。でも先生の場合は、仕事として表現方法のひとつとして、撮影されていますよね。撮る必要があるから撮っている。特に旅先などで撮るのには、どうしたってデジタルカメラのほうが合理的だと思います」
もちろんむやみにシャッターを切っているわけではないと思うが、貴重なものに出会う機会も多い旅先では、心に留めたものはできるだけカメラに収めておきたいと考えるものではないだろうか。


それでも"写真を撮る"ということに対しては、共通の想いを持っている。
「たとえば美しい景色に出会った時、すぐにカメラを構えてシャッターを切る方が多いですよね。でも撮ったことに納得して、その美しさをすぐ忘れてしまってはいないでしょうか。撮れば撮るほど記憶に残らない。記録していて、記憶していないんじゃないかな」
そう語る橋本氏の言葉に、赤松さんもこう続ける。
「見る前に撮ってしまうと、ファーストインプレッションがレンズを通してになってしまうんですよね。たとえば、フランスのモン・サン・ミッシェルの早朝など、日の出前から出かけて行き、時間の流れとともにその場の空気ごと体感して欲しい。
その場に着いた途端、"瞬間"を撮らなくてはいけない一瞬ももちろんありますが、実感が湧いてからの写真は何か違うと思います」

カメラ談義の最後、「これから写真家になろうと思っているの?」と尋ねる赤松さんに、橋本氏は次のように自身の想いを語った。
「写真を撮りたくて仕方がないくらいすごく夢中になっていた時期はありました。でも結局、スタイリストのほうが楽しいと思ったんです。スタイリストの仕事が好きだから写真を撮っていたところがあったんだろうなと。今は、作品を作るという写真芸術としては好きですが、自分の仕事はやっぱりインテリアスタイリストだなと思っています」
自分にとっての"インテリアスタイリスト"の魅力を再認識した橋本氏は、活動の場を広げながらさらに前へと進み続けている。
「これまで雑誌など写真の仕事が多かったのですが、最近はCMや動画の分野での仕事が増えてきました。真っ白なところに、壁や床も含め一から作っていくのが楽しくて楽しくて。そのほかにも、これまでどこそこの何とか、インテリアのブランドやものにばかり目が行っていたんですけど、それほど興味がなくなってきたというか...自分でも考え方や視点が変わったなと思います」
そんな橋本氏の成長に驚くとともに、「大人になりましたね!」と声をかける赤松さん。教え子の成長を心から喜んでいる様子が、優しい表情からとても伝わってきた。
さて続く後編では、空間、建築をテーマに各地へ足を運ぶ赤松さんに、"旅"についてじっくりとお話をうかがいます。旅を楽しむヒントが見つかる、そんな内容を予定していますのでお楽しみに!
インテリアデザイナー、フォト・エッセイストとしてご活躍中
インテリアデザイナー、フォト・エッセイスト。
広島県安芸津町出身。武蔵野美術大学卒業後、出版社を経て、KiNG PROTEA (現 fynbos lab.ーフィボス ラボ 株式会社)設立。
インテリアデザイナーの視点で自ら写真を撮り、エッセイを寄稿している。インテリアや空間、建築をテーマに、世界中のその地ならではの住居や独特な建物を訪れている。特に、都市から離れた田舎や小さな村に残る独自の文化に魅せられている。
「サンデー毎日」に赤松さんの
最新フォト・エッセイが掲載されます。
2/14発売号の巻末グラビアに、赤松さんの写真と文章でつづられた、スイスの古都であり世界遺産の街「ベルン」の記事が掲載されます。
◆前号で紹介された「ルツェルン」の写真



橋本直征氏 プロフィール
赤松珠抄子氏に師事後、2004年独立。
セットデザインから、プロップス、
インテリアスタイリングまで手掛ける。
主に広告、TV-CM美術、雑誌などの
分野を中心に活動。
また、ミュージックビデオや企業のディレクション、セレブリティの邸宅も手掛け、
2009年からは、写真、立体作品、制作、
発表にも精力的に取組み、
その活動は多岐にわたる。
http://naoyuki-hashimoto.com/

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