連載「○○×橋本直征」 光・照明×橋本直征 interior(n)interview Vol.7-1

今回テーマに取り上げる「光」「照明」を、皆さんはどのように捉えているでしょうか。部屋のインテリアを演出してくれるもの?オシャレなもの?

「"光"は"水"や"空気"と同じ。私たちが生きるために必要不可欠なものなんですよ」 取材中、そう言われて思わずハッとしました。確かにそうなんですよね。しかしこれまで、もっと装飾的な存在として捉えていたように思います。

今回は橋本氏が今、非常に興味があるという「光・照明」をクローズアップ。東京・青山にあるルミナベッラという輸入照明器具を扱うショップで、ブランドマーケティング統括マネージャーとして働く、湯田 剛史さんに話をうかがい、照明について幅広く教えていただきました。

前編では、日本における「照明」の歴史や文化、捉え方、そして海外との違いなどについて迫っていきたいと思います。ある意味「照明」に対する見方や考え方が変わるかもしれません。きっと、自分の身の回りの「光」「照明」を見直してみたくなるはずです。

「光・照明×橋本直征」後編はこちら

interior(n)interview 光は、人の心まで突き動かすもの。そして生きるために必要なもの。

冒頭にも記述した、「"光"は"水"や"空気"と同じように、私たちが生きるために必要なもの」そう語る湯田さんの言葉には続きがある。

「本来、"水"も"空気"も私たちの周りに自然とあるものでしたが、環境汚染や健康維持の観点から、水はミネラルウォーターを、空気は空気清浄機を、というように買う文化ができました。しかし"光"は買うベクトルが電球の寿命や電気代に向いていて、"身体のために"という意識が根付いていないと感じています」

上記は、現在の日本での「光」「照明」の捉え方を、分かりやすく表した例だと思う。皆さんもご自身の認識を振り返ると、思い当たる節がないだろうか。

そんなふうに「照明」について語る、いわば"照明の専門家"湯田さんが普段、どういうことをされているのか?まずは簡単にご紹介したいと思う。

湯田さんが働くのは、東京・青山にある「ルミナベッラ」というショップ。輸入照明器具を扱うショップとしては有名なので、ご存じの方も多いのではないだろうか。こちらでは、主にイタリアやスペインなどヨーロッパからの輸入照明器具の販売・提案を行っている。湯田さんはそこで、マーケティングという幅広い視点と、エンドユーザーの視点の双方を考え、照明器具の提案に携わっているという。

「光はその美しさや豊かさで、人の心まで突き動かすもの。だから、有名デザイナーが作ったとか、イタリア製であるとか、そういうブランド重視ではなく、"照明器具として価値あるものかどうか"ということを第一に考え、皆さんへ提案しています」

そう語る湯田さんが、照明を提案する時に心がけていることとは、どんなことなのだろうか?

「まず提案するときに"光は足し算です"ということをお伝えしています。それはムダなところにムダな光が存在しないようにするためです」

たとえば家を新築してそこでの生活をスタートさせる際、完璧な生活空間を用意して始めたい!と皆さん思うのではないだろうか。しかし家というのは、実際に暮らしてみてから分かることが多いもの。

「特に"光"や"照明"に関してはそうなので、引っ越してから一緒に考えましょう、とご提案することがあります。また選ぶ際に迷ったら、一旦家に帰って本当に必要な光は何なのか?検討するということもオススメしています」

生活環境・スタイルに合っていない照明があると、本来団欒の場である場所がそうでなくなる、また寝づらくなる...など、私たちの生活に弊害も出てくるものなのだそう。 そこで暮らす家族構成やどういう目的で使う場所なのか、どういう目的で光を必要としているのか。そういう個々の生活スタイルに合わせて、時間をかけて選んでいくことで、自分に合った照明に出会えるのだという。
このようにユーザーが照明を選ぶ過程を、電球の特性など細かい照明の知識はもちろん、ファブリックや壁紙との相性などの広い知識を持って、湯田さんは日々の提案を通して支えているのだそうだ。

interior(n)interview 日本の照明の今と昔

今回、「光」「照明」について語っていただくにあたり、今そしてこれからの照明を知るためにも、日本にはこれまでに、どんな光・照明の文化があったのか。その点を湯田さんに教えていただくことにした。


「今、日本でポピュラーな"蛍光灯"は、戦後に広まった照明器具です。日本は戦争を境に照明文化が大きく変化したと言われています」


明るい光=幸せの象徴という考え方が、敗戦後の暗い日本には広まったという。その時に均一に明るく照らす"蛍光灯"が日本では主流となり、日本は瞬く間に「蛍光灯大国」となったという。

「しかしそれ以前はどうだったかというと、古来から日本には独自の光に対する文化がありました。 日本家屋には、"軒下"が延びていますよね。これは日本が緯度経度の関係により、太陽が昇る位置や、まぶしい光を防ぐために、そのような作りになっていると言われています。また梅雨という雨季があるためにという役割もあるようです。しかし一方で、太陽からの自然光を採り入れにくい作りにもなっていたため、何かに反射させて屋内に光を採り込む工夫をしていました。それが、庭に敷いた白い砂や池、そして障子でした。特に障子は、気候に合わせて湿度調節をしてくれるだけでなく、面で光を採り入れることができるため、部屋の奥まで光を届けることができました」

今はいわゆる日本家屋というのは少なくなってしまったので、たとえばお寺を考えてみると分かりやすいかもしれない。きれいに作られた庭には、そういう用途もあったのだ。

「また、日本には7千何百色という独自の色の文化があり、色を作る職人もいます。"色"に対する造詣が昔から深い民族だったんですね。色というのは、光の波長で変わるもの。人はその波長で色を見分けているのです。だから色と光というのは密接な関係があるんですよ」

この色のエピソードからも、日本独自の「光」の文化が読み取れるだろう。
そんな独自の文化が、大きく変わったのは先述のとおり、戦争をはさんでからのこと。蛍光灯を使うようになってから、日本の「光」「照明」文化は本来の生態系とは違う方向に進み出してしまったのではないか。湯田さんはそのように語る。

「人間は元々、照明器具などが作られる前には太陽の光で生活していました。エジソンが白熱電球を発明してから、まだたかだか130年くらい。人類の歴史は500万年あると言われていますから、火や太陽の光から採光していた歴史のほうが大半なんです。だから太陽などから得る自然の光は、私たちの身体には欠かせないもの。私たちのDNAに組み込まれているといっても過言ではないでしょう」

この太陽の光に近い光というのは、今はもうなくなりつつある「白熱電球」や新たに広まってきている「高効率タイプのハロゲン電球」というものだ。これらは燃焼系の電球で、熱により光る。このように、太陽の光に近い光、日が昇り夕日を経て夜を迎えるような、なだらかな光のグラデーションを作り出してあげることで、私たちの身体の生体リズムを正常にすることができるのだそうだ。

「太陽の光が私たちの健康に不可欠というのであれば、本来ならばこの白熱電球やハロゲン電球のほうが私たちの身体にベストな光なのではないかと思っています」

しかしその場合にも条件があるという。

「調光、つまりライトコントロールできるということが条件のひとつです。使うシーンや場所に合わせて、光を調節することで生体リズムに合った光を作ることができます。また逆に、光で生体リズムを狂わせてしまうこともあるんです」

たとえば夜中にトイレに行った時、蛍光灯の光を浴びて、寝付けなくなってしまったことはないだろうか。本来浴びてはいけない時間に必要以上に明るい光を浴びてしまうことで、身体のリズムが狂ってしまうのだ。この場合、足元にほのかな光があれば充分なのである。


今の日本は光をコントロールするというよりは、ON/OFFする文化。蛍光灯のスイッチをON/OFFで切り替えることでつけたり消したりを行っている。しかし海外では、「光はコントロールするもの」という意識が根付いているのだそう。特に日照時間の短い期間がある北欧では、効率よく光を採り入れるにはどうしたらいいか?を考えて、ユーザー自身が光を作っているのだという。

「ヨーロッパなど海外では、照明売り場で照明器具のパーツが売られています。もちろんできあがった商品もありますが、自分でパーツを組み合わせて照明器具を作ることができる環境があるのです」

つまり、照明器具を作り、そして自分に合った光を作る。そういう文化が海外にはあるということだ。それにはライトコントロールは欠かせない。
ただ、ライトコントロールと言うと、専用のスイッチや器具を備え付けなければいけないと思いがちだが、もっと簡単な方法があるのだそう。それは、"一室多灯"という考え方だ。

「ひとつの部屋に光が点在することで、シチュエーションに合わせてつけたり消したりして光を調整すれば良いのです。天井についたシーリングランプ1台で過ごしているのであれば、スタンド照明を1台だけでもいいので追加してみてください。スタンド照明は移動させることができますから、それだけでも劇的に光のバリエーションが増えます。また、光の強弱をつけるだけでなく、光の位置を変えるだけでもさまざまな効果が得られます」

(※こちらの"一室多灯"の考え方や光・照明の使い方については、後編でもう少し詳しく紹介しています)

これまでの話をまとめると、蛍光灯より白熱/ハロゲン電球がいいというふうに聞こえてしまうかもしれない。しかしそればかりでもないということをお伝えしておきたい。
環境(エコロジー)を考えれば、消費電力を抑制する努力が必要である。となると、白熱電球よりも効率の良いLEDや蛍光灯も大変重要なのだ。大事なことは「適した場所に適した照明を置くこと、使うこと」という"敵光適所"という考え方。照明は、私たちの生活の中では、演出やオシャレをするためのものだけではない。私たちの生活に必要なもののひとつなのだという認識で見直してみると、何か照明に対する見方、思いが変わってくるのではないだろうか。


次回後編では、日本の照明のこれからについて話を進めていく。また、湯田さんが日本の照明の未来のために活動しているという、TREND OF LIGHTの話も聞かせていただく。

「光・照明×橋本直征」後編はこちら

皆さんからいただいた質問にお答え!

Q.リラックスするには、
  どの位置にどのくらいの明るさの照明が必要でしょうか?


A.
光の位置に関して、一般的には低い光ほど落ち着いた雰囲気を作りやすいと言われています。しかしリラックスする「光」「照明」というのは、目の色によっても変わるもの。なので、最適な明るさの照明というのは、人それぞれ違うんです。瞳が黒い方もいれば、薄い茶色の方もいますね。
欧米の方がサングラスをかけるのは、瞳の色素が薄いために紫外線から目を守るためだと言われています。日本人の目は持久力がないとも言われますので、明るい環境を好む民族だと言えるかもしれません。

まず「照明」を選ぶのに気をつけたいのは、目に入ってきてイヤな感じのする光、たとえばハイパワーなものは、避けたほうがいいでしょう。強い光は目にも良くないですし、そういう光を見ているとストレスがたまりますよね。

またライトコントロールできる照明があれば、そのライトを自分なりにリラックスできる明るさに調整することで、自分に最適な明るさが得られます。


Q.シャンデリアを一般的な住宅で圧迫感なく使うには?
  またどんなことに気にすればよいでしょうか?


A.
ミニシャンデリアというタイプのものがあるので、それを選ぶことで圧迫感なく使えるはずです。
また気をつける点としては、ダイニングテーブルなどで使う場合には、できるだけ下げて使うのがオススメ。シャンデリアの光は電球1個あたりの明るさがあまり明るくないため、光が近い方が良いのです。当たって壊れたら...と思って高い位置につけると、暗く感じてしまうと思います。空間のバランスを考えるのであれば、部屋の広さにもよりますが、背の高い家具の配置は避けたほうがよいでしょう。


Q.トルコの色鮮やかなランプ、
  部屋に取り入れる時の使い方のポイントとは?


A.
トルコのランプに限らず、特徴あるアイテムを取り入れる時には、その周りのトーンも合わせてあげると統一感が出ます。たとえば今回のライトであれば、周りの壁紙やアート、ファブリックなどをオリエンタルなものにしてみると良いのでは?

適した場所に適した照明を置くこと、使うこと 光・照明

TREND OF LIGHT

今回、光・照明についてお話をうかがった、湯田さんが主宰を務める
TREND OF LIGHT」。
その活動内容に関しては、「光・照明×橋本直征(後編)」でもご紹介中。
また、TOL公式Webサイトでは、具体的な活動やそのレポートなどが掲載されている。


今回の取材の場所
「LUMINABELLA(青山)」

今回の取材の場所「LUMINABELLA(青山)」 今回の取材の場所「LUMINABELLA(青山)」 今回の取材の場所「LUMINABELLA(青山)」

今回取材を行ったのは、東京・青山にある「LUMINABELLA(ルミナベッラ)」。
ショップ内にはさまざまなタイプのライトが展示されている。

橋本直征氏 プロフィール

橋本直征氏

赤松珠抄子氏に師事後、独立。
2004年よりインテリアスタイリストとして
主に雑誌、広告、TV-CFなどの
分野を中心に活動。
また、ミュージックビデオや
企業のディレクション等も手掛け、
2009年からは、写真制作にも取組み
その活動は多岐にわたる。
http://naoyuki-hashimoto.com/

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